第32章
 開幕、そして第一の試練

 月日が流れるのは早い。
 マルコ・フィオーレとアキ・ミツルギがそれぞれの決意を胸に旅立ってから、三ヶ月
の歳月が流れた。その間、二人はそれぞれの方法で己を磨き、仲間を集め、勝利を掴も
うと努力を重ねた。
 そして、ついにその時が来た。



 コズミック・イラ73、7月19日。
 この日、アキ達が夕食を食べ終えた直後、アークロイヤルに組織からの通信が送られ
てきた。
 艦橋にいたカテリーナから通信が来た事を知らされ、アキ達は全員直ちに艦橋に集ま
った。通信は声のみで、内容も簡潔なものだった。だが、通信を聞いたアキの表情は、
夕食後の和やかなものから一変して厳しくなる。
「アークロイヤルの全乗員、特にアキ・ミツルギに告げる」
 音声は機械によって作られたものだった。感情無き人工の声が淡々と語る。
「マルコ・フィオーレとの一回目の対決の日時及び場所が決定した。日時は三日後、現
地時間の午前六時。場所はシベリア、タイガの密林地帯」
 艦橋のモニターに、詳しい場所を示した地図が映し出される。都市から遠く離れた密
林で、人目につく心配は無い。秘密の戦いの場としては相応しい。
「今回の対決の方式は、MSによるタッグマッチ。双方共に二名ずつ出場せよ。当然、
マルコ・フィオーレとアキ・ミツルギは絶対に出場する事」
 そして、詳しいルールが説明される。試合はマルコかアキのどちらかの機体が戦闘不
能になった時点で終了。相手を殺害した場合は双方共に失格となり、生き残った方も処
刑される。
「勝っても相手を殺したら処刑でござるか。厳しいルールでござるな」
 夏の言うとおりだが、アキには関係ないルールだ。元々彼女にマルコを殺す意志は無
い。マルコも幹部の地位を目前にして、それを捨てるような事はしないだろう。
「武器の使用は許可するが、タイガの森林は人類共通の財産であり、これを破壊する銃
火器やビーム兵器の使用は禁止。また、タイガの木々を斬ったり、倒す事も禁止とす
る。木を一本でも倒したら、その時点で負けとなるので注意するように」
 これは厳しいルールだ。人間よりも遥かに大きな体であるMSを森林で戦わせて、木
を倒すなというのは無茶だ。このルール下では森林の木々はある意味、敵MSより厄介
な『敵』となる。
 しかし、ルールに意義を申し立てる事は出来ない。それに条件はマルコも同じだ。
「やるしかありません。夏さん、私に力を貸してくれますか?」
「無論。拙者達はその為にここにいるのでござるからな」
 頷く夏。フィアとユナも頷いてくれた。
「今回は私の出番は無し、か。仕方ないわね、二人の勝利を祈っててあげるわ」
「フィアさん、暇ならライブフレームと撃影の整備を手伝ってください。森林の中でも
素早く動けるよう、調整しないと」
 過酷なルールにも怯まず、闘志を見せる四人の女達。だが、彼女達の敵となる少年の
母親は悩んでいた。
『悩むわ……。マルコには勝ってほしいけど、でも、将来の娘にも負けてほしくない。
ああ、私はどっちを応援すればいいのかしら?』
 優しく苦悩するカテリーナを乗せて、ミラージュコロイドで姿を隠したアークロイヤ
ルは決戦の地へと向かう。



 タイガ。
 ロシアに同じ名前の町があるが、マルコとアキの対決の場となる『タイガ』はその町
ではなく、ロシアのシベリア地方に広がる広大な針葉樹林の事である。
 極寒の風雪にも負けず、北の大地を緑で彩るこの森林は、南米大陸のアマゾンと並ぶ
地球に残された貴重な天然の森林であり、地球の全人類にとっての宝である。その為、
この地域を統治するユーラシア連邦はタイガ一帯の開発を禁じており、厳しい保護政策
を取っている。
 しかし、広大なタイガを人間が完全に管轄するのは不可能に近い。マルコとアキの対
決が行なわれる事になったのも、組織が根回ししたとはいえ、ユーラシアのタイガ保護
政策が不十分である事の証明だろう。
「それでも昔よりはマトモになったとは聞いてるわよ。『アイスブレイン』がもっとや
る気を出せば、ユーラシア軍も変わるだろうけど……」
 どうやらフィアは、『アイスブレイン』と呼ばれるユーラシアの名将ヴィクター・ハ
ルトマンに期待しているらしい。昔、雇われて一緒に戦った事があるそうだ。
「でも、私が期待した男って、みーんな私の期待を裏切るのよねえ」
 苦笑するフィア。事実、そのとおりになるのだが、それはまた別の話。
 タイガの密林を前にして、アークロイヤルはミラージュコロイドを解除した。人はも
ちろん、獣の姿さえ見えない雪原に、アークロイヤルはその巨体を下ろした。それと同
時に音声による通信が入る。
「アキ・ミツルギの到着を確認。マルコ・フィオーレは既に到着している。両者、共に
戦闘の準備に入れ。戦闘開始は今からジャスト一時間後とする」
 機械の音声が、戦いの狼煙を上げた。一時間後、亡霊を追いかける為に強くなろうと
する少年と、そんな彼を愛するが故に彼に勝とうとする少女の死闘が始まる。



 アークロイヤルが着地した場所から遠く離れたタイガの密林の端に、マルコ達の艦ユ
ニコルンが着地していた。
 艦がタイガの地に降りると同時に、マルコはデスフレームに乗り込んだ。狭い操縦席
の中に籠もり、集中力を高める。
「…………そうか。アキの奴、ついに来たか」
【思ったより早かったね。急いで来たのかな?】
 と、人工知能の光(コウ)が言う。彼はマルコが操縦席に籠もって以来、唯一の話相
手になっていた。
【あと一時間か。緊張してない?】
「別に。戦って勝つだけさ。あいつは僕の敵じゃない」
【でも別れてから三ヶ月も経っているし、その間に腕を上げているかも…】
「僕だって三ヶ月前とは違う」
 自信たっぷりに答えるマルコ。確かに、この三ヶ月の間、彼は自分を鍛え続けた。フ
ァントムペインへの強襲だけでなく、傭兵に扮して各地の戦場を渡り歩いて実戦経験を
積み、デスフレームにも細かい調整を施してきた。負ける要素は全く無い。
 唯一の不安は、この戦闘がタッグマッチで行なわれる事ぐらいだ。マルコがパートナ
ーに選んだ、いや選ばざるを得なかった男もようやくMSに乗り込み、機体のチェック
をしている。
【レオ・ゲルツェンか。あの人がパートナーで大丈夫?】
「大丈夫とは言い切れないけど、腕は確かだ。それにこの艦のメンバーで、僕以外にM
Sに乗れるのは彼しかいない」
 剛馬は酒ばかり飲んでおり、マルコの為に戦うつもりは全く無いと言い切った。イノ
リは無菌状態にした自室から一歩も出てこない。残っているのはレオだけ。選択の余地
は無かったのだ。
「レオの機体の通信は、アキ達のは拾わないようにしてあるかい?」
【うん、ちゃんと調整してあるよ】
「ならいい。女相手だと、彼は途端に弱くなるから」
 女性恐怖症と言ってもいいレオにとって、アキ達は天敵のような相手だ。声を聞いた
だけで固まってしまうかもしれない。
 マルコはレオが乗っているMSを見る。ベルゼルガ。二年前にダブルGが造った核動
力MSで、かつて剛馬がこれに乗って、マルコが目標にしている男とその仲間達を大い
に苦しめた。
「確かにMSはいい。レオの腕も悪くない。けど、当てにはしない。他人の力を当てに
するのは自分に自信が無いからだ。僕は違う。僕が頼るのは、自分の力だけだ」
 自分に言い聞かせるように、そう判断するマルコ。光(コウ)は何も言わなかった。



【闇(アン)、分かっていると思うけど…】
【ああ、分かっているさ、光(コウ)。俺はこの戦いには手を出さない。まあ出したく
ても出せないんだけどな。ちっ、ノーフェイスの野郎、妙なプログラムを仕込みやがっ
て】
【この戦いはあの二人の戦いだからね。僕も最低限のサポートしかしないよ】
【両方のサポートか。お前も大変だな】
【そうでもないよ。僕はその為に作られたからね】
【ああ、そうだったな。で、お前はどっちを応援しているんだ?】
【どっちも。僕はどちらかに感情移入する事は出来ないように作られているし】
【そうだったな。結局はお前もサポート役という名前の傍観者か。あーあ、つまらない
な。そろそろ暴れたいぜ】
【もう少しだけ我慢してよ、闇(アン)。君の出番は近い内にきっと来るよ。きっと、
必ずね】



 湖畔に浮かぶ巨城。その一室で、メレア・アルストルは豪華な椅子に腰を下ろし、チ
ョコレート菓子を摘んでいた。
 メレアの正面には二つの巨大なモニターがあり、それぞれ別の映像が映し出されてい
た。右のモニターにはマルコ達がいるシベリアのタイガが、左のモニターにはニューヨ
ークの摩天楼を見下ろす光景が映っている。どちらも現地に送り込んだアルゴス・アイ
からの映像だ。
「いよいよ始まるのか。ふふっ、どっちのイベントも楽しみだなあ」
 高級チョコレート菓子を食しながら、メレアはその時を待っていた。彼はずっと待っ
ていた。今日のこの日が来るのを待ち望んでいたのだ。
「もうすぐ世界が動き出す。激動の時代が始まる。その幕を開けるのはこの僕だ。ニュ
ーヨークが炎で染められる時、雪原の密林では世紀の決戦が行なわれる。ああ、楽しみ
だ。素晴らしいイベントだ」
 狂喜するメレア。傍らにノーフェイスがいれば主の悪笑を諌めるのだろうが、今日は
いない。ノーフェイスはエンキドゥ・カンパニーの影のエージェントという『顔』の一
つを使って、ニューヨークでのイベントを盛り上げる手筈になっている。
「ノーフェイス、君も頑張ってくれよ。ブルーコスモスの連中を上手く乗せて、このイ
ベントを静かなる福音への最高の幕開けにしてくれ。ふふっ、ふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふ」
 メレアの狂喜は止まらない。止められない。メレアの命が尽きるその時まで、誰にも
止める事は出来ない。
 時刻はニューヨーク時間で7月22日午後11時11分、シベリア時間で7月23日
午後1時11分。それぞれの地で、戦いの幕が上がった。



「時間です」
 機械音声がそう告げると同時に、デスフレームとベルゼルガ、ライブフレームとスト
ライク撃影はそれぞれの母艦から飛び出した。四機はタイガの森の中へと入り、木々の
間を潜り抜けながら、慎重に歩を進める。
「ミラージュコロイドの使用は禁じられては折らぬでござる。姿を消して、偵察してこ
ようか?」
 そう提案する夏だが、アキは反対した。
「この森は広すぎるぐらい広くて、マルコ達がどこに潜んでいるか分かりません。ミラ
ージュコロイドはエネルギーの消耗が激しいから、探している内にエネルギーが尽きて
しまう可能性があります」
 アキの言うとおりだ。ここは慎重に行動すべきだろう。
 日はまだ高く、雪の積もった大地はか弱い日光で照らされる。日光は雪に反射して、
人間の眼を眩ませる。
 こんな場所では、人間の目による索敵は不可能に近い。Nジャマーによる電波傷害に
も対応している高性能レーダーと、対MS用の熱センサーだけが頼りだ。
「光(コウ)、敵MSの反応は?」
【ライブフレームの索敵範囲内にはありません】
「そう。でも油断は禁物。警戒を怠らないで」
【了解】
 最低限の会話を交わした後、アキも光(コウ)も己の仕事に集中する。光(コウ)は
敵の位置を探り、アキは敵の襲撃に備える。
 だが、実は光(コウ)はデスフレームの位置を知っていた。人工知能である光(コ
ウ)はライブフレームともデスフレームとも一心同体なのだから、その位置を知ってて
当然。しかし光(コウ)はマルコにもアキにも、その事実は話さない。ノーフェイスに
よって、そう制限されているのだ。
「光(コウ)、ライブフレームの位置は?」
【デスフレームの索敵範囲内には反応はありません。パートナーの機体もです】
 真実を隠して、光(コウ)はマルコにも淡々と返事をする。それが光(コウ)の任務
であり、運命なのだ。
「アキのパートナーは、恐らく宮城夏だ。だとしたら機体はストライク撃影、ミラージ
ュコロイドを使っている可能性もある。ミラージュコロイドデテクターも使え。絶対に
見逃すな」
【了解しました】
 夏の名前を口にすると、マルコの心の奥がわずかに騒ぐ。報われない初恋。そう割り
切ったはずなのに、それでも……。
『ふん。僕もレオの事を笑えないな』
 自嘲したマルコは、再び周囲を警戒する。後ろにはレオが乗るベルゼルガが着いて来
ているが、
「おーい、マルコさーん、待ってくださーい。このMS、雪の中だと思ったよりも動か
しにくいし、木にぶつからないように歩くのは大変なんですよ。くっ、この!」
 慣れない気体に悪戦苦闘しているようだ。
 動きの鈍いレオだが、もちろんここに来る前にベルゼルガの操縦訓練はさせている。
その時はきちんと乗りこなしており、剛馬からも、
「おお、上手いもんだな。これなら俺の刀も使いこなせるだろう。偶然だがお前と同じ
名前の刀だ。大切に使ってやってくれ」
 と認められ、彼が作ったMS用の刀《キング・オブ・レオ》と共に譲り受けたのだ。
「そんなに期待はしていなかったけど、それでも足手まといにはならないと思っていた
んだが…」
 ベルゼルガの動きは鈍いままだった。雪に足をとられ、転びそうになっている。核動
力機とは思えない醜態だ。
「名刀も、シロウトが使えばただの鉄くずか。もういい、レオ、お前はそこから動く
な。作戦を変更する」
 マルコは非情な、しかし適切な判断を下した。



 戦闘開始から二十分後。ついにアキはデスフレームを発見した。
 突然のレーダー反応。空が曇り、雪の反射が収まったのでモニターを見ると、前方の
森の木々の向こう、500mほど先にある大木の影に隠れている。だが、MSの巨体は
大木でも隠し切れるものではない。デスフレームの手足が少し見えている。
「アキ殿」
 夏の方もデスフレームの姿を確認したようだ。声を潜めて、アキに指示をくれるよう
通信する。助っ人として参加しているが、この対決の主役はあくまでマルコとアキ。危
険が無い限り、夏はアキの意志を尊重するつもりだ。
 アキは少し迷っていた。マルコを攻撃する事にではなく、
『呆気なさ過ぎる』
 そう思ったのだ。
 組織のエリートとして育成され、最高幹部の最終候補にまで生き残った程の男が、こ
うも簡単に見つけられるだろうか? 答えは、否としか言えない。
『マルコは頭でっかちのバカエリートじゃない。本当に優秀。だから、こんな簡単に見
つかるなんて信じられない』
 アキは周囲を見回す。マルコのパートナーの機体の姿は見えない。レーダーの反応は
前方にいるデスフレームのみで、他の機体の反応は無い。熱センサーも静かだった。
『!? 熱センサーの反応が、無い?』
 おかしい。だが、確かに熱センサーの反応は無い。目の前にいる、寒いシベリアの大
地で動く為に熱エネルギーを蓄えているはずのデスフレームにも、センサーは反応して
いないのだ。
「夏さん、気を付けて! あれはフェイクです!」
 そのとおり、アキ達が見つけたのは精巧に作られたデスフレームのフェイク。予備パ
ーツを繋ぎ合わせただけのガラクタ人形だった。
 直後、レーダーが新たな機影を捉えた。数は一、真上から来る!
「!!」
 間一髪で反応したアキは、ライブフレームを即座に動かす。ライブフレームが後ろに
飛び下がった直後、デスフレームの蹴りが雪の大地にめり込んだ。
 念入りに作ったフェイクを利用した奇襲作戦は失敗した。だが、マルコに落胆した様
子は無い。
「こんな初歩的な罠に気付くのに、二十四秒もかかるとは。アキ、お前、腕が落ちたよ
うだな」
「マルコ……」
 愛する人との久しぶりの再会。だが、アキの心は喜ばなかった。戸惑い、迷い、それ
でも決意して言い放つ。
「あなたを倒しに来ました。この勝負、私が必ず勝利します」
 アキの宣戦布告。だが、マルコは鼻で笑った。
「ふん。たった今、倒されかけた奴が何を言っている。寝言は寝てから語れ」
 冷徹にそう言うマルコに、夏は驚いた。二年前の照れ屋で少し生意気で、だけどとて
も優しかった少年とは別人のようだった。
「マルコ殿、お主、変わってしまったのでござるな」
「………人はいつまでも昔と同じではいられない。いてはならない。宮城夏、それはあ
なたも知っているはずだ」
 そのとおりだ。人は昔のままでいてはならない。己を鍛え、努力を積み重ねて、一歩
ずつでも前に進み、成長しなければ。夏はそう思って生きてきたし、それは正しい事だ
と思っている。
 マルコもこの二年間、努力を重ねて、強くなったのだろう。アキの話や、今のデスフ
レームの素早く鋭い蹴りを見て、それはよく分かった。しかし、
「変わってしまってはならない事もあるでござる。忘れてしまってはダメなものもある
のでござる。マルコ殿、お主は大切な事を忘れているでござるよ」
 かつて共に戦った仲間を諭す夏。だが、今のマルコに彼女の声と思いは届かない。
「ふっ、二年ぶりの再会の挨拶が説教とは。あなたらしいな、サムライ・レディ。だが
今は戦いの時間だ。つまらない説教をする時間でも、それに従う時間でもない!」
 デスフレームが突きを繰り出す。先程の飛び蹴りと同様、鋭く速い。
「!」
 ライブフレームは、かろうじてかわした。アキの額に冷たい汗が浮かぶ。
 ビーム兵器や銃火器の使用が禁じられている以上、戦いは手足を用いた接近戦、格闘
戦になるのが自然だ。そういう戦いでは、二年前からMSを操縦し、一日の長があるマ
ルコが有利だ。
「はっ、はっ、はあっ!」
 デスフレームの連続攻撃。鋭い突きが、蹴りが、ライブフレームの体をかすめる。
 攻撃する方もされている方も休む間もない苛烈な攻撃。だが、実は森の木々を倒さな
いよう、これでも慎重に攻撃している。マルコが手加減せず攻撃していたら、最初の突
きを食らって倒されていただろう。
『ううむ、直接戦う事になればまだまだ未熟なアキ殿が不利だとは思っていたが、まさ
かこれ程の差があるとは……』
 夏も動揺している。今のマルコは強い。夏が相手をしても互角、いやMSの性能差で
マルコが勝つかもしれない。
 押されているのはアキ自身が一番良く分かっていた。まともに戦っていては勝ち目は
無い事も。
「でも、私だって、この三ヶ月、怠けていた訳じゃない!」
 ライブフレームが後ろに下がる。いや、ただ下がっているのではない。ステップを踏
みながら軽やかに、しかし立ち並ぶ木々は上手に避けて下がっている。その動きを見た
夏は思い出す。
「あれは、イスタンブールで習ったダンスの動きでござるな」
 ダンスと格闘技。この二つはまったく違うようでいて、実は共通点が多い。無駄な動
きを一切許さず、時に軽やかに、時に重々しく動き、華麗な、重厚なアクションを繰り
出す。『美しい踊りを見せる』と『敵を倒す』という目的の違いはあるが、ダンスのア
クションは格闘技の参考にするには非常に優秀なのだ。
 アキがMSによるダンスを学んだのは、それを戦いで活かせるかも知れないと考えた
からだ。確信があっての事ではなかったが、実際に学び、体得した結果、アキの体の動
きは以前より良くなり、MSを動かす時のイメージも鮮やかに浮かぶようになった。
 頭に浮かんだダンスのイメージに従い、アキは操縦桿を動かし、金属製の巨体を舞わ
せる。この一連の動きには一切の無駄が無く、ライブフレームは舞姫と呼ぶべきアクシ
ョンを見せる。その美しい舞には、敵であるレオも見とれてしまった。
「ほう。なかなかやるじゃないですか。マルコさんの攻撃を避けきれないと判断して一
歩引いた判断の良さといい、あの無駄の無い美しい動きといい、ライブフレームのパイ
ロット、なかなかやりますね」
 礼儀正しく分析したレオは、少し考える。さて、これから自分は何をすればいいのだ
ろうか。マルコの援護をするか、それとも、
「目障りになりそうな蝿を、先に潰しておくか」
 レオのベルゼルガの正面に、夏のストライク撃影が立ち塞がった。撃影は小太刀《タ
イガー・ピアス》を抜き、その刃先をベルゼルガに突きつける。
「そのMSに乗っているのは不動剛馬か? ならば良い機会だ。いざ、尋常に勝負!」
 ベルゼルガに宿敵が乗っていると思い込んでいる夏は、激しく闘志を燃やす。だが、
レオの方はマルコの手によって敵との通信を遮断されている為、夏の宣言は伝わらなか
った。
「ストライク撃影か。組織のデータによれば、なかなか厄介なMSらしいですね」
 ちなみにレオに渡されたデータには、撃影のパイロットが女性だとは書かれていなか
った。ノーフェイスが気を利かせたのだ。
「このベルゼルガの性能なら、勝てない相手ではない。しかし俺は、ベルゼルガでは今
日が初めての実戦。相手はかなりの強者だそうだし、さて、どうするべきか」
 戦うべきか逃げるべきか。悩むレオを放っておいて、マルコはアキのライブフレーム
を追っていた。
 レオが評したとおり、確かにライブフレームの動きはいい。森の木々の間を巧みに潜
り抜けて、デスフレームの追撃をかわしながら距離を取っている。ダンスのような動き
は敵ながら見事なもので、こちらの攻撃が当たらないのにも納得してしまう。
 ビームライフルや銃火器が使えれば簡単に仕留められるだろうが、使えばこちらの負
けだ。しかし、このまま追いかけっこをしても追いつけず、精神的にマルコの方が疲れ
てしまい、その隙を突かれるだろう。アキはそれを狙っているのだ。
 それはマルコも承知している。だから、攻撃をかわされながらも追っているのだ。
「…………そろそろだな」
 マルコの唇に密かな笑みが浮かぶ。
 デスフレームはライブフレームを追いつつ、とある木の前に来た。そして、その木の
根元の雪の中に手を突っ込み、一本のロープを持ち上げた。いや、それはロープではな
く、とても大きくて長いワイヤーだった。
 長く伸びたワイヤーは、木の幹を貫き通されていた。貫き通されている木は一本では
ない。よく見ればこの辺り一帯の木は全て、デスフレームが手にしたワイヤーで貫かれ
ている。
 ワイヤーを手にしたデスフレームを見たアキは戦慄する。自分は上手く逃げていたつ
もりだったが、そうではない。ここに、ワイヤーに貫かれた木に囲まれたこの場所に、
追い込まれていたのだ。
「しまっ…」
 アキがそう言う前に、マルコは罠を発動させた。デスフレームの切り札《ホクト》が
目覚め、凄まじい振動がワイヤーに伝わる。特殊合金で作られたワイヤーは、予め《ホ
クト》の出力を調整していた事もあって、破砕する事無く《ホクト》の超振動を伝え
る。ワイヤーを通された木々にも超振動は伝わり、そして、
 ボンッ!
 という不気味な音と共に、木々が弾け飛んだ。太い幹も、細い枝も、針のように鋭い
緑色の葉も、全て砕けて、細かい塵となった。
 一体何本の木が砕けたのか、モニターは膨大な木々の塵によって塞がれてしまい、何
も見えなくなった。レーダーも電波に反射する物質が一気に増えてしまい、役に立たな
い。
「木の破片だけじゃない、金属の破片も混ざっている。木に仕掛けていたの?」
 用意周到な罠だった。この破片の雨の中、迂闊に動く事は出来ない。動けば相手に位
置を報せてしまう。破片の雨が収まるのを、
「待ってはくれないみたいね」
 見えなくてもアキには分かった。前方から凄まじいまでの殺気を感じる。
 視界を塞がれたライブフレームの前に、デスフレームが立っていた。両手の拳は僅か
に震えており、ライブフレームを砕く準備に入った事を告げている。
「アキ、ここまでだ」
 最後通告をするマルコ。デスフレームとライブフレーム、この二体のMSは基本性能
は互角だが、デスフレームには一撃必殺の《ホクト》があり、マルコの操縦技術はアキ
を上回っている。ライブフレームが動きを止めて追いつかれた時点で、この勝負は決ま
ったのだ。



「ほう。イノリ、お前さんはそう思うのかい?」
 ユニコルンの艦橋で、アルゴス・アイから送られたこの戦いの最新映像を見ていた剛
馬は、無菌室に籠もっているイノリにそう言った。イノリの部屋にもモニターはあり、
彼女もマルコ達の戦いを見ている。彼女はライブフレームを追い詰めたデスフレームを
見て、
「決まったわね」
 と言い切ったのだ。
「ええ。だってそうじゃない。全てはマルコのシナリオどおり。相手を調子付かせて、
あの罠を仕掛けた森に誘い込み、罠のせいでパニックになったところに一撃入れる。そ
れで終わり、勝負あり、決着、私達の大勝利。昨日、あんなに苦労して罠を仕掛けた甲
斐があったわね」
 実はマルコ達は、アキが来る二十四時間前にこの決戦場に来ていた。そして丸一日か
けて作戦を考え、周到な罠を仕掛けたのだ。
「まあ、メレア様はえこひいきし過ぎだと思うけど。いくらマルコを勝たせたいからと
言って、相手より先に現地入りさせたり、ルールにわざと抜け穴を作ったりして、そん
なにマルコを勝たせたいのかしら?」
 首を傾げるイノリ。確かに、今回のルールには穴があった。森の木を斬ったり倒した
り、ビームなどで焼くのは禁止しているが、『細かく砕く事』は禁じていない。
 デスフレームの《ホクト》の性能を知っていれば、タイガの大森林を本当に守るつも
りなら、その使用を制限するルールにするはずだ。いや、そもそもこの森を戦場にした
りはしないだろう。メレアはわざとルールに穴を作り、マルコとデスフレームに有利な
場所を戦場にしたのだ。
「ちょっとアキって子が気の毒になるわね。マルコの当て馬とはいえ、可哀想に」
 とアキに同情するイノリ。だが、剛馬の考えは違った。
「ああ、何もかもマルコの予想どおり、思惑どおりだ。だがな」
 剛馬はニヤリと笑い、酒瓶に手を伸ばす。そして、
「これだけひいきされて勝てなかったら、マルコの奴、どう思うだろうな」
 酒を一気に飲み干した。あまり上等な酒ではなく値段も安いが、剛馬はこの酒が好き
だった。
「酒も人生も美味いばかりじゃ、いや、上手いばかりじゃつまらない。あの坊ちゃんボ
スは、その事をよーく知っているはずだぜ」
 剛馬の言うとおり、メレアはよく知っていた。結末の分かっている戦いほど退屈なも
のは無い、という事を。他人の戦いを見るならば尚更だ。
「……そうね。あの人なら、こんな退屈なイベントにはしないわ」
 それについては、イノリも同意見だった。彼女の眼は、モニターの向こうで睨み合う
デスフレームとライブフレームに釘付けになる。



 デスフレームがライブフレームの前に立っていたのは、わずか四秒。四秒後、マルコ
は止めの一撃を叩き込む為、デスフレームを動かした。
 そう、ライブフレームを追い詰めた時点で、既に勝負は付いた。後は止めを刺すだけ
だった。
 なのになぜ四秒も停止したのだろうか? いや、正確には『止めを刺そうと決断する
のに、なぜ四秒もかかったのか?』
 それはマルコ本人にも分からなかった。だが、結果的にこの四秒が全てを決めた。
 追い詰められたアキだったが、まだ彼女は諦めてはいなかった。その眼には、戦う意
志を感じさせる輝きを秘めている。
 この戦いが始まる前、アキはマルコとの戦いを何十回、何百回、いや何千回もシミュ
レーションしていた。そのほとんどがアキの敗北で、こうして追い詰められる事も多か
った。だから実際に追い詰められてもまったく動じていなかったし、こうなった場合ど
うするべきかも考えていた。それは、
「アキ殿!」
 仲間を信じる事。そして、
「夏さん!」
 その声に答えて、素早く動く事。
 一人ではマルコには勝てない。そう判断したアキは、早くから仲間になってくれる人
を求めた。そして、アキとマルコの事情を知るシャドウ・セイバーズを仲間にして、今
日までコンビネーションの練習をしてきたのだ。
 粉塵と化した木々を破って、ストライク撃影のピアザーロック《グレイプニール改》
の爪が飛んできた。だか狙いはデスフレームではなく、ライブフレームの腕。細い腕を
掴んで、一気に引き寄せる。
「しまっ…」
 とマルコが追いかけるが、もう遅い。ライブフレームは木々の粉塵の闇を抜け、撃影
の元に引き寄せられた。
「遅れてすまぬ。アキ殿、大丈夫でござるか?」
「ええ、私もライブフレームも無事です。少し汚れましたけど」
「その様でござるな。アークロイヤルに戻ったら、シャワーを浴びせましょう」
 珍しく冗談を言う夏。アキも微笑んで応える。二人ともコンビネーションが成功した
事で、少し興奮しているらしい。
 ライブフレームが窮地に陥った時、撃影が助けるコンビネーションは十七も考えられ
ていた。今回使ったのは八番目に考えられたもので、何らかの理由で視界を失ったライ
ブフレームを、撃影が《グレイプニール改》で引き寄せるという単純な、しかし効果的
なものだった。
 窮地は脱したが、デスフレームとの戦いはまだ終わっていない。粉塵を抜けたデスフ
レームが、その姿をライブフレームの前に見せる。
「アキ殿…」
「夏さんは下がっててください。手助けは無用です」
 アキの言葉には、今までよりも力が込められていた。歴戦の勇士である夏は、アキの
強い決意を感じ取り、それに応える。
「分かった。力の限り戦われよ。骨は拾ってやるでござる」
「はい。ありがとうございます」
 アキは礼を言って、再びデスフレームと対峙する。
 デスフレームもライブフレームも、両腕の拳を握る。銃火器やビーム兵器の使用を禁
ずるルール上、この戦いでは格闘技しか使えない。それならば一撃必殺の《ホクト》を
持つデスフレームの方が有利だ。パイロットの技量差もある。まともに戦って、アキに
勝機は無い。
 アキもつい先程まで、そう思っていた。今の自分ではマルコには勝てない。たから一
旦退いて、態勢を立て直そうと逃げていたのだ。
 だが、今は違う。いや、気付いたのだ。逃げてばかりでは絶対に勝てない。私は何の
為にここにいる? 何の為に戦っている? 勝つ為だ。マルコに勝って、彼を亡霊の思
い出から救い上げる為だ。ならば逃げてはいけない。愛しい人と戦い、勝たなければな
らない。
「もう私は逃げない。ライブフレームの力を信じて、そして、勝つ」
 アキに必要だったのは、ほんの少しの勇気。自分とライブフレームの力を信じる心。
「知恵と根性と勇気、ですか。あの人がなぜこの三つに拘っていたのか、少し分かった
気がします」
 自分にはあの人のような知恵も根性も無い。だが、勇気なら、
「それぐらいなら私にもある。ううん、それくらいは持ってないとダメ」
 そう気付いたアキは、心の底から勇気を搾り出す。そして、
「信じる。自分を。ライブフレームを」
 その言葉どおり、彼女は今の自分を信じた。そして、一緒に戦ったり踊ったりして、
この三ヶ月間、共に過ごしてきた愛機を信じた。
 一方、マルコは他人を信じてはいなかった。彼が信じているのは自分の力と、全てを
破壊するデスフレームの力だけ。自分と愛機の力を信じる。その思いはアキの勇気に似
ているが、まったく違うものである。
「終わりだ、アキ。砕けろ」
 暗い思いを胸に秘めたマルコが、デスフレームの最後の一撃を放つ。右の拳を限界近
くまで振動させて、ライブフレームを叩き込む。マルコとデスフレームの全ての力を込
めた、渾身の一撃だった。
「終わらない。私はまだ終わらないわ」
 そう言い切るアキだったが、デスフレームの拳はかわせなかった。デスフレームの右
の正拳はライブフレームの腹部に命中。同時に操縦席にまで、凄まじいまでに激しい振
動が伝わる。このままでは数秒後にアキもろとも砕け散るだろう。
 しかし、
「お願い、《デミウルゴス》!」
 ライブフレームの切り札であり、世界の創造者の名を与えられたシステムが発動。瞬
時に排出されたナノマシンが、デスフレームの《ホクト》によって傷付き、破損した箇
所を直していく。
「小賢しい真似を!」
 マルコは《ホクト》の出力を更に上げた。超振動を超えた超絶的な振動、激振動と呼
ばれる《ホクト》の最高出力を繰り出す。大地震をも超える程の振動がライブフレーム
を、アキを、更にはナノマシン達までをも襲い、余波だけでナノマシンの微細な体を砕
いていく。
 ライブフレームの体内にある《デミウルゴス》本体にも亀裂が入る。だが、それでも
《デミウルゴス》は止まらなかった。自身の傷をナノマシンで修復する一方、砕けたナ
ノマシンに変わる新たなナノマシンを作り出して、機体を修復していく。
 修復と破砕、創造と消滅。相反する二つの力による奇妙な戦いは、わずか15秒で決
着した。
 デスフレームの体に亀裂が走る。《ホクト》の激振動の反動に、デスフレームが耐え
切れなくなったのだ。
「……!」
 焦るマルコを他所に、自動安全装置が作動した。《ホクト》は停止して、醜い亀裂が
入ったデスフレームだけを残した。
 いや、もう一体いる。ナノマシンで完全に修復されたライブフレームだ。度重なる修
復によってエネルギーは限界に近かったが、最後の一撃を放つ分は残っている。
「マルコ。私はあなたの敵。今日からあなたにとって、最強の敵よ」
 ライブフレームの拳が、デスフレームの頭に炸裂。殴り飛ばされ、地に倒れたデスフ
レームは、ピクリとも動かない。
「勝負あり。勝者、アキ・ミツルギ」
 コンピューターによる音声が、死闘の終了と勝者の名前を告げた。



「こっちも終わったか。うん、どっちも面白かったなあ。満足、満足」
 二つの戦いを見ていたメレアは椅子に座ったまま、ぐっと背伸びした。どちらも面白
いショーだった。
 メレアが見ていた二つのモニターの向こうでは、それぞれの戦闘後の様子が映し出さ
れていた。ニューヨークからの映像は、ディプレクター北米支部長キラ・ヤマトのネオ
ストライクによって撃墜されたズィニアと、それを片付ける軍やディプレクターの面々
が映されており、シベリアのタイガからは勝利したアキと、そんな彼女を優しく迎える
フィアとユナ、そして一人だけ嬉しくなさそうなカテリーナの様子が映っている。
「どっちも第一幕としては、上々の出来だったね。特にマルコ・フィオーレ。あれだけ
頑張ったのに、そして僕も手を貸してあげたのに負けるなんて、本当にだらしないな
あ。情けないなあ。ま、こうなるとは分かっていたけどね」
 メレアはマルコにはまったく期待していなかった。純粋培養されたエリートは確かに
優秀だが、それ故に脆く、限界も見えている。メレアが求める人材は、優秀さと力強さ
を併せ持った、心強き者。
「君には期待しているよ。これからももっと試練を与えてあげるから、それを乗り越え
て僕の役に立つ道具になってくれ。本当に期待しているよ、アキ・ミツルギ。ふふふふ
ふふふふふ……」



【終わったね】
【ああ、終わったな。なかなか面白い戦いだった】
【闇(アン)は、アキが勝つと予想していた?】
【いや。だが、勝つ確率は高いと思っていた】
【どうして?】
【アキは面白いし、そして強い。マルコは強いけど弱い】
【なるほど】
【意味が分かったのか?】
【分かるよ。闇(アン)は僕なんだから】
【そうだったな。俺達は二人で一人、二つで一つだった】
【これからマルコはどうするのかな?】
【さあな。つまらない事はしないでもらいたいが……】



 敗者の艦となったユニコルンは、重苦しい空気に包まれていた。
 戻ってきたマルコはデスフレームの修理をロボット達に任せて、自室に籠もってしま
った。誰とも顔を合わそうとはせず、食事の時間になっても出て来ない。
 結局、何もしなかったレオは無傷のベルゼルガと共に戻り、艦橋に上がって、剛馬に
報告した。夏と対峙した時は緊張したそうだが、撃影がライブフレームの危機を知って
を助けに行った為、レオは戦わずにすんだ。
 この話を無菌室で聞いたイノリは、
「ふうん、それって見逃してもらったようなものね。あの時、あんたはマルコを助けに
は行かなかったわね。行こうと思えば行けたのに、どうして?」
 と尋ねると、レオは少し驚いた。
「あー…………そういえば、助けに行く気は起きなかったですね。そんな事、考えもし
ませんでした。どうしてでしょう? 俺ってそんなに薄情な人間でしたか?」
「いや、私に聞かれても困るんだけど」
 この二人のやり取りを見て、剛馬はククッと笑う。
「まあこうなるだろうとは思っていたが、これでは負けて当然だな。俺も含めて全員協
調性ゼロ。チームワーク以前の問題だ。さて、ここからどうする、マルコ・フィオー
レ?」
 剛馬が大きな不安と、わずかな期待を込めてその名を呼んだ少年は、自室のベッドに
伏せていた。そして、
「……………………」
 声を上げず、泣いていた。

(2008・6/21掲載)
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